タイ料理なら恵比寿のLongrain Tokyo

レストラン

「タイ料理、久しぶりに食べたくないですか?」
そう言ったのは、職場の後輩だった。
辛いものはわりと好きな方だけど、外でタイ料理を食べるのはいつぶりだっただろう。
都内の有名店はいくつか頭に浮かんだけど、その日は彼のおすすめに乗ることにした。

案内されたのは、恵比寿のLongrain Tokyo。
ビルの上階にあると聞いて、最初はちょっと構えてしまったけれど、
店に一歩入った瞬間、空気のトーンが違った。
音の反響がやわらかくて、照明も過度に明るすぎない。
内装も抜け感があって、主張しすぎないのに、ちゃんと整っている。
その時点でかなり期待値が上がった。

刺激じゃなく、余白で魅せるタイ料理

この日のコースは、前菜から最後の一皿まで、いい意味で想像を裏切られた。
まず最初に出てきたのは、鮮魚のカルパッチョにヌクマムのジュレとティムールペッパー。
見た目は静かなんだけど、口に入れるとゆっくりと香りが広がっていく。
塩気と酸味のバランスが絶妙で、食欲をじわっと立ち上げてくれるような一皿だった。

続いて出てきたのは、スプリングロールと、青いジャスミンライス「カオヤム」。
カオヤムは、正直初めて食べたけど、ハーブと発酵の香りが複雑に絡んでいて美味しかった。
辛さや主張の強いスパイスじゃなくて、香りや温度、食感のグラデーションで楽しませてくれる。

メインは、グリルチキンのパイナップルスパイスバジルソース。
甘み、酸味、香ばしさ、それぞれが立ちすぎず、口の中でちょうどよく収まる。
素材に火を入れるタイミングも完璧で、皮のパリッと感と中のしっとり感が印象的だった。

最後の締めは、ロングレイン特製のグリーンカレー。
見た目はシンプルだけど、口に入れた瞬間の奥行きがすごかった。
辛さよりも、ココナッツとスパイスの重なり方が美しくて、
一口ごとに少しずつ余韻が変化していくような感覚。
タイ料理って、こんなに繊細なんだと思わされた。

デザートは、甘さ控えめで香りが立っていた。
飲み物はタイティーにしたけれど、それがまたぴったりで、
刺激のあとにくる静けさ、みたいな余韻を残してくれた。

「また行きたい」より、「また誰かを連れてきたい」

食事が進むうちに、会話のテンポも自然とゆっくりになっていた。
料理の美味しさだけじゃなく、空間の静けさやスタッフの立ち位置、
ひと皿ごとの間の取り方にまで、ちゃんと配慮があるように感じた。

今度は誰かを連れてきて、同じような感覚を味わってもらいたい。
そんなふうに思わせてくれる店は、そう多くない。