港区でたい焼きといえば「浪花家総本店」

お茶

たい焼きが食べたいときって、けっこう突然くる。

食事のあと、もう少しだけ何か食べたいなと思ったときに、
真っ先に思い浮かぶのが、「浪花家総本店」のたい焼きだ。
甘いものはそんなに得意じゃないけど、あそこのたい焼きは別枠という感じがする。

麻布十番の交差点を少し入った路地にある、落ち着いた佇まいの店。
気をつけてないと通り過ぎそうなほど控えめだけど、暖簾の先には、明治四十二年(1909年)創業の老舗の空気がちゃんと漂っている。

平日の昼過ぎでも数人は並んでいることが多い。
でも、不思議とこの店の列にはストレスがない。
たいやき一丁ずつ焼き上げている様子を眺めながら、ちょっとだけ呼吸を整える。
そういう時間もまた、この店の味の一部かもしれない。

香ばしさと、薄さと、控えめな甘さ

焼きたてを紙袋ごしに受け取ると、ほんのり温かい。
すぐにその場でかぶりつくと、まず皮のパリッとした香ばしさがくる。
「たい焼きって、こんなに皮が薄かったっけ?」と思うほど繊細で、でもしっかり焼き込まれている。

中のあんこは、甘さ控えめで、小豆の味がちゃんと残っているタイプ。
おそらく、一釜ずつじっくり炊いているからこその風味なんだろう。

たい焼きって、皮とあんこの比率が難しいと思う。
皮が厚いと重たくなるし、あんこが多すぎても飽きる。
その点、浪花家のたい焼きは最後まで同じテンポで食べられる設計になってる気がする。

時間にして、5分もかからず食べ終わる。
でも、その5分でしっかり満たされる。
そんなおやつって、なかなかないと思う。

もう一個食べたいな、と思いつつ、それを我慢して帰る感じも悪くない。
満腹じゃなく、満足。
ちょうどそのくらいの距離感が、たい焼きには合っている気がする。

たい焼きは、気取らない街のごちそう

たい焼きが食べたいから麻布十番に行く――
そんなふうに目的地になる甘味って、実は貴重だ。

浪花家は、たい焼き以外にも焼きそばやかき氷、あんみつもある。
夏は冷房がない店内でかき氷を食べるのも風情があるし、
秋口にお汁粉を食べに行くのも悪くない。

たい焼きの形をした最中や、あんことクリームをサブレで挟んだ「アズウィッチ」なんかも、
贈りものや手土産にちょうどいい。
かわいさだけじゃなく、ちゃんと味で勝負している感じがあって、もらった人の反応もいい。

でも、やっぱりこの店の一番いいところは、
焼きたてのたい焼きを片手に、ちょっとだけ立ち止まるあの時間かもしれない。

気張らないのに、心にひっかかる。
たい焼きのあの香ばしさとやさしい甘さだけは、なぜかしっかり覚えている。